特定非営利活動法人
NPO日本食育インストラクター協会


NPO日本食育インストラクター1級取得者インタビュー企画⑨:西村由美子さん

心療内科クリニックでの公認心理師として勤務され、また震災を2度も経験された西村由美子さんにお話を伺いました。食と心に関する研究の中での“食育”、また命を守る観点からの“食育”と、食育についてご自身のしっかりした考え方をお持ちです。



Q.まず、食育インストラクターとの出会いから、お願いできますでしょうか。
食育という言葉と出会ったのは、2010年頃、地元新聞社が発行する、食育を広める事を目的とした生活情報紙の企画編集に関わることになったのがきっかけでした。その情報紙は、学校給食の様子や、地元の農作物の情報など、様々な角度から「食」について情報を発信していました。

 それまでは、地産地消などの言葉は知っていたものの、それがどのような意味を持つのか、地球環境にどのような影響を与えるのかなど、深く考えた事がなかったのですが、この情報紙の取材を通して食育の大切さを痛感しました。中学校家庭科の教員免許は取得していたものの、もっと食育に特化した勉強はできないものかと探していたところ、たまたま食育インストラクターの新聞広告を見つけました。そこで、早速、通信教育でプライマリーを取得。その後、3級、2級、1級と学びを深めてきました。

Q.食育インストラクター1級まで取得された西村さんの考える、「食育」についてお聞かせください。
よく「食育インストラクターって何? 職業としてやっていけるの?」と尋ねられます。

私は、その都度「職業としての資格ではなく、食育を知る事で、今の生活や仕事にプラスアルファになる資格だと思う」と答えています。もちろん、食育インストラクターとして活躍されている方も多くいらっしゃいますが、まだまだ、食育インストラクターの資格を重視して採用される企業は少ないように感じます。
 
一方、家族の誰かが「食卓を囲む」という意義を知ることで、生活が豊かになり、心身の安定に繋がるのではないでしょうか。子育て中の家庭では「野菜や果物の旬や栄養」「食の伝承」「食事のマナー」を知り、子どもに伝えることで、子どもたちの心身の健康に繋がるのではないでしょうか。そして、保育士さんや教育関係者、医療関係者、ボランティア団体に属する方など対人援助職の方が、自分が知っている食に関する知識に加えて、食育という分野を改めて認識することにより、よりよい支援に繋がるのではないかと考えます。つまり、資格取得はもちろんですが、それ以上に「選食力」「食の伝承」「地球環境と食」を学ぶことで、心身ともに健康に生きていく力を養うことに繋がると思っています。

Q.食育関連での論文を発表されたとの事ですが、論文内容と食育インストラクターとしての活動についてお話いただけないでしょうか?
心理関係の仕事に転職してから、心療内科クリニック勤務時に、子どもを対象にした食育を担当。6年間、調理や食育の座学などの活動を実施。その結果を論文にまとめて、今年の春に学会誌に発表しました。

また、私の主たる仕事である教育関係のカウンセラーの業務の一環として、「食と心」というテーマで講話を行いました。この時は、食育インストラクターの肩書きで、学校の保健室の先生方や学校栄養教諭の先生方を対象に実施。多くの先生方に参加していただき、子どもたちの持つ特性が食に与える影響や、心を育てる食卓の大切さなどを中心に90分間の講話と、食事バランスガイドを利用して簡単なワークも実施しました。先生方からは、「子ども達の特性に合わせた給食指導の工夫や、保護者への食の大切さを伝える方法がわかった」など、嬉しい感想をいただきました。



Q.これからの食育インストラクターとしての目標などを教えていただけたたらと思います。
今後の目標は、家庭的に厳しい背景があったり、発達の課題を抱えている子どもたちにも、命を守る食事について、自分で考え、自分で行動する力を養うことです。現在ボランティアとして関わっている不登校児の支援施設では、子ども食堂や、貧困家庭への食料配付、子どもたち自身による調理活動や農作業など、様々な食に関わる活動が行われています。そして、支援を受けている子どもたちは、食育活動に参加することで、自発的にいろいろな行動ができるようになっています。食を通した活動が、コミュニケーション能力を高め、自分で自分の命を守るという気持ちを高め、自分で行動できる力を養っている様子を目の当たりにしていると、これからの食育活動は、社会福祉の観点からも、ますます重要になってくることでしょう。

 私の住む県は、2016年に大震災が発生し、大きな被害がでました。加えて、2020年には豪雨禍にも見舞われています。大きな自然災害禍では避難生活が余儀なくされ、食事がまともに摂れなくなってしまいます。特に、コロナ禍というパンデミックの下で起きた豪雨災害では、感染拡大防止の観点から災害地に入ることもできず、食事の炊き出しや食物の入手、支援物資の配付すら困難となり、避難者も支援者も途方に暮れてしまいました。この体験は、地域とのつながり、地域の食を守る環境やフードマイレージなど、食糧問題を世界レベルで考える時期にきていることを実感した出来事でした。今後も、子どものみならず、大人も食について様々な角度から考え直すことが重要だと思います。そのためにも研鑽を重ね、食育インストラクターの資格を生かして、命を守る観点からの食育を浸透していかねばならないと考えています。

Q.最後に、論文の執筆活動には大きな苦労があったと思いますが・・
私は東日本大震災が発災した年に、災害に遭った人々の心の状態を知り、自分もケアできる職業に就きたいと考えて、心理系の通信制の大学に編入しました。そして、子どもたちの心のケアに携わる仕事に就き、大学を3年かけ卒業。さらに心理学を深く学ぶために大学院に進学し、修士論文を執筆して、無事に卒業。運の良いことに、国家資格となった心理の資格である公認心理師の第一回目の国家試験にも合格することができました。そして、資格を取得したことで、念願だった子どもたちの心のケアをするカウンセラーの仕事に就くことができました。

 その間、家族にはたくさん迷惑をかけてしまいました。家事を手伝ってくれている娘が言うには、「お母さんの趣味は研究と論文」。研究が進まずに苦労しながらも、楽しそうにパソコンに向かう姿を見て応援してくれているのだなあと、家族には心から感謝の気持ちで一杯です。現在、夫と、社会人の娘の3人で暮らしています。独立した息子には孫も生まれ、名実もとに「おばあちゃん」となりました。いよいよ人生の折り返しも過ぎ、第二の人生が始まりましたが、定年退職した夫が、家事や雑事を担ってくれているので、大好きなカフェで、おいしいコーヒーと癒やしのBGMを聴きながら、パソコンに向かうという私の至福の時間は継続中。これからも、家族に感謝しながら、食と心に関する研究を続け、少しでも困難を抱える子どもたちの役に立てるような支援を考えていくことが私の生きがいになりそうです。

西村さんにとって、「食と心に関する研究」というライフワークの中での食育活動、また「命を守る観点からの食育」での取り組みが、ますます発展することを祈念いたします。ありがとうございました。

6年間に渡る記録をまとめられ、今年春に学会誌に掲載された、特別な配慮が必要な子どもにおける食育による行動変化を考察された論文(PDF版)を添付させていただきます。

日本公衆衛生看護学会誌 JJPHN Vol.12 No.1 39-45(2023)西村由美子.pdf



講話で使用した手作り教材。この時のテーマは「コンビニ食、出来合いの惣菜などを予算内で栄養のバランスを考えて買うには」

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